プロ野球ファンとして、あの「江夏の21球」を、幼いながらもリアルタイムで見られたことは、至上の喜びである。
それくらいに、日本シリーズ最終戦、9回裏無死満塁から見せた江夏の投球は、野球というスポーツの面白さのすべてが凝縮されていたように思う。
本書は、江夏自身と取材者の文章が繰り返される形式で、江夏のここまでの人生がつづられている。
現代のプロ野球にはまず見られない、破天荒な生き方は大きく心ひかれる。
「野球人生で投げろといわれて断ったことは一度もない」と語るように、連投は当たり前、先発から救援まですべてをこなすタフガイであった。
優勝請負人として、数々の球団を渡り歩いた際の裏話も多数収載。
トラブルメイカーとして知られた江夏ではあるが、歯に衣着せぬ発言が心地よいのと同時に、その人間的な優しさが実によく伝わってくる。
覚せい剤事件でグラウンドからの距離は少し遠のいてしまったが、今なお監督姿を一度は見てみたいと強く感じるほど、その野球眼は卓越している。
野武士のような野球選手が減った今だからこそ、そんな姿を見てみたいものなのだが。
スポーツノンフィクションの金字塔とも言われる、山際淳司氏の『江夏の21球』。
本書もまた、スポーツ選手の自伝としては、間違いなく一級かと思える作品である。
by anken99
| 2011-02-26 13:09
| 読書
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