太地喜和子という、ある女優の生き様を描いた本作。
筆者はニュースキャスターやスポーツノンフィクションの世界で活躍する長田渚左だ。
その筆者が、なぜ?といぶかしむ向きもあろうが、バックボーンを知るにつれ、この人だからこそ書けた作品であることが分かってくる。
筆者は太地の演劇を見て衝撃を覚え、その後は桐朋学園大学演劇科にて、演劇の道を目指す。
結果的には、太地の域に達することは不可能であることを悟り、別の道に進んだわけだ。
その後、インタビューという場で奇跡の遭遇を果たした後は、妹としてかわいがられるようになったのだとか。
それゆえに、知る人ぞ知るエピソードが満載だ。
本書は、不慮の事故により48歳の若さで急逝した太地を、筆者がたどっていくというスタイルである。
太地といえば、男と芸に生きた女優として知られるが、縁あった男性へのインタビューもあますところなく収載されている点にも注目すべきだ。
三国連太郎しかり、中村勘九郎しかり、それだけのスターが、プライベートな思い出の数々を吐露するというのは、やはり故人の人間的な魅力ゆえだろう。
すべてを読み終えたときに、やはり生で本人の舞台を見たかったものだと痛感した。
太地喜和子のルーツは、鯨で有名な和歌山県の太地町だといわれる。
本書を読んだのは、偶然にも南紀へ向かう旅の途中であり、読了翌日には太地町を訪れることになった。
そういう意味でも、実に印象深い一作であった。
by anken99
| 2011-03-10 15:21
| 読書
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